厳しさと反省
山田精機製作所はプラスチック射出成形品を製作するが、製品の主はクルマのブッシュ・軸受け部品である。
人の命にもつながりかねない重要なパーツゆえに、山田社長の品質への厳しさは日々緩むことはない。
「どうしても社員には厳しく接してしまうんだけど、いつもその後反省するんだよね。」
品質に厳しいことは仕方がないと思うのだが、
でも「もっと違う言い方はなかっただろうか?」そう自問自答する繰り返しだと言う。
会社の歴史
山田精機製作所は、現社長の父が昭和37年長野県岡谷市に起業した。
自宅の工場で鋳物の切削加工から始まった会社は、やがてプラスチック加工へと事業が移り変わりながら
現在のプラスチックの射出成型・プラスチック切削加工へと至る。
世の中のあらゆるモノがプラスチック製品に取って代わっていった時代。
時代のニーズに応える事業変遷であったのだろう。
ある時、山田社長が機械博物館を訪れた際には、我が家にあった見覚えのある機械を見ながら
「割と早い時期にプラスチック加工を始めていたんだな…。」そう思ったそうだ。
実家に入社
専門学校を卒業した後は、地元の製造業に就職した。
諏訪・岡谷といえば言わずと知れた製造業の盛んな地域である。
しかし進学時も就職時も、いずれ実家の会社を継ぐなどというオプションは全く頭にはなかったそうだ。
だが会社側の事情は大きく違う。創業時の切削工場時代からの取引先は今でも最重要な元請け企業であるが、
その企業から「今後も取引を継続するには跡取りが必須だ」と求められた。
実家の会社は息子(現社長)を入社させた。
2代目の責任
1989年に入社した頃はバブルがはじけた時だったことをよく覚えている。
24歳の若さもあって、社長の息子であっても高待遇でもなければ、一般社員での入社だった。
おまけに父である社長はとても厳しく、昔気質の職人肌で、技術は盗んで覚えろ!的な人だったそうだ。
それでも「アイデアがあって、仕事は出来た父。」と尊敬している。
やがて工場長を経て40歳の2006年より社長を引き継いだ。
ISOの取得もひと段落と思った矢先に、リーマンショックが新社長を襲う。
入社したときもバブル崩壊で大変だった。社長になったらリーマンショックである。
必死だった。
「とにかく、俺が会社を潰さないように。」
従業員にも協力してもらい、正社員の雇用は守りながら耐えた。
強みと責任
山田精機製作所のプラスチック成型品は、オイル入りのプラスチック素材を使用できることが特徴だ。
当然工作機械も特殊になるが、そのために前述のブッシュ・軸受け製品加工が作り出せる。
しかし“maid in JAPAN”の宿命でもあるが「顧客の要求は細かく厳しくなるばかり」である。
その要求に応えるための努力を怠ることは許されない。
「お客様に迷惑をかけることはできません。お客様に迷惑をかけるということは、社会へ迷惑をかけることになる。
品質を下げることは社会に迷惑をかけること。」これは山田社長から口癖のように出る言葉だ。
「良い製品を納めて会社が安定して、従業員を安定雇用したい。
だからついつい、従業員には厳しく接してしまう。」いつもこれで悩むという。
ちなみに、会社には3代目となる社長の息子さんも入社している。
彼に対しても接し方は厳しくなってしまうそうで、将来の益々の厳しさを思うといくら厳しく接しても足りないほどだそうだ。
今後の課題
これからの課題は多方面からの受注だと山田社長は言う。
「当社のような規模の会社では、厳しい仕事しかいただけないと思います。
しかし敢えて、人が嫌がるような仕事を『ありがとうございます』と感謝してもらいたい。」
だが営業などはした事もなく、人付き合いもどちらかといえば苦手な方だ。
そのために趣味のゴルフを人脈づくりに生かそうともしている。
「以前はお付き合いのためのゴルフで下手でしたが、45歳位から自分を分析できるようになったおかげで腕前が上達してきたのです。
上手くなると楽しいもので積極的な気持ちになりますから、好きなゴルフを苦手な人付き合いの手段に活用しようと考えたのです。」
ゴルフがきっかけで知らない人との交流が叶う。すると仕事の話にも繋がるようになってきたのは成果だ。
山田社長は自身でも週末の夜勤を担当しているので体力的にも大変な筈だが、せっかくの趣味でさえ仕事との関わりを望んでしまうところは頭が下がる思いだ。
雇用の悩み
「これは当社だけの問題でもなく、岡谷諏訪だけの問題でもない。日本の製造業が抱える問題だ!」
山田精機製作所は24時間稼働している。そのために常に雇用問題に頭を抱えている。
従業員が休みの土日やお正月などには、山田社長自身が夜勤当番だ。
機械トラブルは深夜だろうと起こり得る。「気が休まることはない」のだそうだ。
それでも品質は守らねばならない。
厳しさに務まらない社員も出る。
派遣社員や外国人実習生を受け入れてきたが、社会問題を解決できるほどの事ではないという。
初心忘れるべからず
“初心忘れるべからず”が常に言い聞かせている言葉だと言う。
初心とは品質を落とさない事。それが全ての原点であり、父から受け継いだ会社を潰さずに次の世代へと渡せる原点。
会社を守り従業員やその家族の生活を守れる原点であるからだ。
「品質は毎日毎日の積み重ね」という思いがまた今日も社員へ厳しく接してしまう。
今頃も、「言い方が悪かったかな…。」と反省しているのかもしれない。