24年間の愛車
箕輪バイパス沿いにある『創和設計』は3階建てのスタイルのいい社屋だ。
一階の駐車場には大切に乗られているマツダのセダンが停まっている。1995年型でもう既に生産は終了したモデルだが、実はこれが小河社長の愛車である。
小河社長はこの愛車を23年間もの長期にわたり乗り続けているのだそうだ。
旧型のマツダ車ではあるが、このデザインは海外の自動車デザイナーから非常に高い評価を受け、東京モーターショーでも「世界で一番美しいデザイン」と讃えられたクルマだ。
”美しいデザインで中身が丈夫なクルマなら23年間でも乗り続けられる”
おそらく、小河社長の一級建築士としてのポリシーと愛車とがシンクロしているのではないだろうか?
そんなことを想ってしまう。
出会い
1951年生まれで、父親が家具職人だったこともあり、幼年期から「物づくり」の現場を見ながら成長してきた。そして設計の道を歩むことになるが、そのきっかけはのちの師匠である建築家「竹中勉」との出会いである。
若き小河青年は竹中設計の門を叩き入所し、竹中勉氏の指導のもと、学校・庁舎・病院など多くの建築物の設計を手掛け、高い評価もいただいた。
16年間在籍したのちの1988年37歳の若さで株式会社 創和建築設計事務所を開設した。
明日を創る
『明日を“創る”』をテーマに掲げた社名でもあった。
1年目から順調なスタートを切ったものの、朝から晩まで現場監理に走り回り、設計の仕事は夜にやらなければいけない生活が続いた。
当然図面は手書き・ドラフターの時代だ。パソコンはもちろんワープロ・携帯もない。すべてがアナログの時代であり、疲労困ぱいの中、神経を使う仕事を深夜にこなすのは如何ほどのご苦労であっただろう。
そんな中、主な実績としては民間の建築物はもとより、多くの公共建築物も手掛けた。
箕輪中学校、箕輪町役場庁舎、サンハート美和、箕輪町文化会館など、用途も多岐にわたる。いずれの建物も、最初に見た時の印象は誰もが同じ感想を持つのではないだろうか?
そう、「かっこいい!」のである。
『明日を“創る”』は真にカタチとなって人々に利用されていった。
プロ集団のリーダーとして
1994年に新社屋が完成し、仮事務所から念願の自社ビルに移った時の感激は忘れられないと言う。社名も創和建築設計事務所から創和設計に改め、現在では一級建築士6名を含め、10名のスタッフを抱えるプロ集団である。
常に“一歩先を提案する”を設計信条としているが、言葉は変化しても創業時からのテーマ『明日を“創る”』からは一貫して何ら変わることはない。
建築士の社員たちが口にする”発注者の要望+一歩先”などの考えは、創和設計のフィロソフィーが浸透している証だろう。
プロ集団のリーダーとして、小河社長が企業文化を高める取り組みは『完全週休二日制』と『ノー残業』を徹底することでありこのことは10年以上前から実践している。
働き方改革が政府によって叫ばれてはいるが、設計事務所で既にこれを実現している会社は異例中の異例なはずだ。
設計事務所というのは、小河社長が起業した当時そのままに、今でも深夜に明かりが煌々と輝く会社が多いのではなかろうか?
こんな企業文化の構築もいち早く徹底しており、そして本年2018年には創業30年周年を迎える。
将来の夢と希望
設計の仕事は、素人の我々が思うほど簡単なことではないに違いない。
それでも大勢の建築技術者を抱え、2代目となるご子息も一級建築士で在籍する。会社に将来の不安はないだろうと話を向けてみた。
すると一般には知られていない大きな構造的な社会不安を知ることができた。
それは、業界の高齢化・後継者不足である。その原因は、建設系の学生で将来の仕事として設計事務所を選択する若者が皆無であるのが実情であるとのこと。
いずれにしても、なくてはならない仕事であるのに、若者に人気がないのは、給与や休日の日数の少なさなど、ブラックに近い業界の悪い風習かな?と苦笑いをする。
現在構成員430社の集団「(一社)長野県建築士事務所協会」の会長である。
今後の設計事務所の健全なる発展と、発注者である施主の利益を図るにはどうしたらいいか、悩んでいるんだよと苦笑いをする。
ジェントルマン
筆者は設計事務所を最初に訪れる時には大変緊張する。
襟なしワイシャツを着て、気難しそうな所長さんが出てきやしないかと思うからだ。
そういうタイプの方が経験上多かったのである。
66歳の小河社長はそういったタイプとは違うジェントルマンだ。
週末は土曜日に限り夜の街へ出かけることが楽しみだそうだが、平日は出歩くことはしない。
そしてゴルフを愛する。かつては年間50ラウンドも回ったそうだから相当な数だ。
スコアを聞いてみると「90台です」と即答されることが以外だった。
つまりスコアにこだわっている感じのご返答ではなかったからだ。
ゴルフを通じて大切に想っていることは、もっと他にあるような気がした。
そう、超名門クラブのメンバーの言葉を思い出した。ゴルフで一番大切にしていることは「マナー」だという言葉だ。
自分が経験した過酷な労働を社員にはさせず、一度決めたクルマを23年間愛し続ける。
年間に50回も出かけたゴルフでも、追い求めたものはスコアではなく、ジェントルマンシップだったのではないだろうか?
text/ Photo northwing