【特許】172件の意味
皆川社長の【特許】取得件数はすごい。海外特許を合わせて172件に及ぶ。
ずらりと証書を並べて誇示しないのか?と聞くと「そんなことに大した意味はない。」とそっけない。
今必要な10個ほどの特許権は維持してしているが、ほとんどの特許権は期限満了や権利放棄したのだそうだ。
特許権は財産権を保護することとライバルの参入を封じ込める。裁判も優位だし、何より開発した商品の信頼性を端的にアナウンスするには優利だ。
でも皆川社長の特許への考えは一般の概念とは異なる。
「皆川がやってきたことはどういう発明だったのか?もし誰かがそんなことを思ったとき、そのすべてが特許の申請書類にまとめてある。
私は技術者としての存在を特許申請のカタチで残してきた。」のだそうだ。
ちなみに特許申請は最も多い時期で月に6件を申請したらしい。弁理士などに依頼はせず、全て自身で行ってきたそうだからすごい。
ナノの世界
ナノとは原子・分子のレベルの単位のことだ。
近年よく耳にする単位だが、意外とその歴史は古く60年も昔の1959年まで遡れるという。
ナノファーム株式会社は、水性塗料やシート、そして”水”に至る開発商品を製造販売している会社だが、それらの開発商品は全てナノテクノロジーから生み出される。
例え同じ水性塗料でも、ナノファームの塗料は原子・分子単位のレベルから生み出される商品なので、耐火・耐熱・耐久・耐UV。防水・防カビ等の優位性が他の塗料などとは本質的に異なる。
ナノテクノロジーから生み出される、明日の地球に必要な商品農場という意味で『ナノファーム』と名付けた。
ヨット製作
社会人のスタートはデータ通信の技術者だった。誰もが知るエレクトロニクスメーカーで端末開発を行っていたのだが、開発した技術を巡っての社内のいざこざに嫌気が差して辞めてしまった。
そんな時期に人は趣味に没頭したりするものだ。皆川青年は海が好きだった。釣りが好きでヨットが好きで、大型クルーザーに憧れ小型一級船舶の免許も取得していた。
そしてヨットは自ら製作することも趣味だった。14ft(4.2m)の一人乗りヨットだが、コンパネで骨材を作ってFRPを貼り付けて成型していく。そして最後にウレタン溶剤の塗料で塗装をするわけだ。
実はこの得意な趣味のヨット製作が、その後の人生へと導いた。
時代は第一次オイルショックの頃である。経済が混乱する中で石油に依存するFRPやウレタン溶剤は臭いや燃えやすさも欠点で公害性も高い。
そこで、昭和高分子株式会社と共同で水性アクリル樹脂を開発した結果、塗膜防水材として風呂やベランダの施工に使われ始めた。
それは、防水事業として拡大していった。
近畿車両と東洋エクステリアとの出会い
皆川社長は防水技術を住宅フェアに出展していた。その技術に着目したのが近畿車両である。
近畿車両が使用していた塗料には問題が多かったため、皆川社長が開発した塗料を使用した結果様々な条件をクリアし、
その後共同開発を行った鉄道車両用コーティング剤「JKコート」は東京メトロや新幹線、リニアモーターカーでも試作採用された。
東洋エクステリアには防水材としての価値が認められ住宅建材の様々な部材に使用されて効果を発揮させた。
後に、東洋エクステリアとは共同出資による会社(株式会社リボール)を設立することになり、その会社は長野県駒ヶ根市の東洋エクステリア駒ヶ根工場内に置くことになったのである。
ナノ研究と水分子クラスター
ナノ研究のスタートは2003年が元年だ。
東京理科大学内の技術移転企業(TLO)として設立された『株式会社日本ボロン』でナノ粒子化の研究開発をすることになった。
ナノの単位で開発を行うには水のクラスター(集団)を小さくしなければならない問題に行き当たる。
学校で習った通り、水の分子はHが2つとOが1つで1セット。
それ単体でいてくれればありがたいのだが、一般的にはHはあっちのOとくっついて、OはこっちのHとくっついてという具合に皆が互いにくっつき合って集団になっている。
これをクラスター(集団)化していると言う。
ナノ研究では、この水のクラスター(集団)を壊し始めた。すると壊れることでナノ粒子とで溶けやすくなって良い塗料ができるではないか!
研究の結果、ナノファームの主力製品である『ナノマイティ』がここで誕生した。
水性塗料の優位性
そもそも水性塗料は有害物質を含まず火災の危険もない。シンナーも不要で健康・環境に優しいといった点で優れている。まずこの事を認識しないといけない。
ただし従来の水性塗料は欠点も多かった。接着性が悪く屋外で使用するには十分に適さず、劣化したり固まりやすいという欠点が多かったためだ。
それを防ぐには添加剤を必要としていたのだが、ナノテクノロジーによって高機能の水性ナノ塗料化を成功させた。
これが『ナノマイティ』である。
ナノファームの設立
水性塗料『ナノマイティ』は様々な高機能な性質を持っている。塗料として優れているばかりではなく
その他の機能=防水・撥水、防サビ・防カビ、UVカット、耐熱・耐候・耐久性、柔軟性などの様々な特徴を合わせ持っている。
つまり、これらをコーティングした商品は単独商品として様々な場面で活躍することを意味する。
皆川社長は2012年、満を持してナノファーム株式会社を設立した。
超臨界がもたらした”水”の誕生
ナノ研究で水のクラスター化を壊す研究を重ねていた皆川社長は、2016年ついにクラスター化していない水=H²Oが独立した状態の水を製造することに成功した。
今までは、この状態の水を作りだすには化学精製による製造法しか存在せず、しかも飲用などには適さないのだそうだ。
皆川社長はクラスターを壊す技術として『超臨界』の特性を生み出す機械を考案した。
超臨界のことはあえて触れないが、機械の中で宇宙の真空と、マグマの高熱、そして深海の高圧を作りだしたのである。
世界初のことだ。勿論、これも特許を取得した。
クラスター化していない水の製造を機械的に作り出す事は、大学の教授でも理解してもらえないのだと言う。
そのまま『世界初の”水”』と名付けて商標登録した。
世界初の”水”の可能性と警戒感
ミネラルを除いた極めて純粋に近いH²Oは様々な分野への応用に期待が持たれている。
とりわけ医療や美容、健康、食品といった分野に画期的な変化をもたらす可能性を秘めているのだ。
皆川社長の元にはあらゆる分野からの問い合わせや説明会への招へいが絶えることなく続いていて、ほとんど会社に出勤できないことが悩みだと言う。
しかし、汲み上げた水を「◯◯天然水」とか「ミネラルたっぷり」を謳った水を販売する水ビジネスが盛んな時代にあって、それらと同一視されることには技術者として葛藤している。
もちろん、飲用するだけでも身体の健康に大きな効果は期待できる。
しかし、社会のために役立つはずの水が、水ビジネスのカテゴリーに取り込まれることに警戒感を抱くのだ。
街の発明家
ヨット以外の趣味は?と聞くと、温泉巡りが楽しみだと言う。
健康や体力には自信があるようで、スポーツジムでスイミングもしているそうだ。
しかし実は子供の頃から野菜が苦手で、身体が受付けなくて戻してしまう子供だったようだ。
お祖母さんが心配して、代わりにと漢方薬を煎じて飲ませてくれた事が思い出だと言う。
次の研究は何ですか?と向けると「燃えない社会を作りたい。」のだそうである。
たとえば住宅。あらゆる部材や建材にナノファームの塗料がコーティングしてあったとしたら?その家は火事にならない、例え障子紙でさえも。
衣類やカーテンの繊維にナノファームの技術が織り込んであれば火災や火傷が起こらない。
さらには、「重水素」の研究が大きなテーマだそうだ。
『ナノ』の技術で今後も新たな商品が生み出す『ファーム』の皆川社長は農場主ではなく”街の発明家”であった。
text/ Photo northwing
http://nano-farm.com